アート・アニメーションと旧共産圏

「アート・アニメーション」という言葉は、日本国内でチェコやロシアの人形アニメーションが盛んに公開されるようになった2000年前後から盛んに使われ始めるようになった。「アート・アニメーション」はいわば俗語で、明確な定義をすべき語ではない。


 俗語ではあるが、意味合い的には、「主として非商業の立場で、キャラクターやストーリーよりも、映像の美的・造形的な価値を追求することで、作者の個性が強く現れたアニメーション」のようなものといっていいだろう。では、なぜチェコやロシアのアニメーションだけが特に「アート・アニメーション」と呼ばれるようにようなったのだろうか。


 まず、チェコやロシアをはじめとする東欧地域は、旧共産圏であったこと。この要因は大きい。つまり旧共産圏の場合、アニメーション作家も「公務員」であるため、資本主義社会のような商業性に関係なくアニメーションを制作できたという環境が、必然的に作家性の強いアニメーションを生み出すことになった。


 また、商業性を気にする必要性がないため、われわれが普段よく見ている低コスト・大量生産のための商業用のセルアニメーション以外の制作が盛んであったこと。チェコのように人形劇の伝統がある国家では、人形アニメーションが盛んに、またロシアでは切り絵アニメーションが発達して、資本主義国家の商業用セルアニメーションとは異なる芸術的な作品が多数生み出されたといえる。


 チェコでは1940年代から人形アニメーションを発表たH・ティールロヴァー(Hermina Tyrlova)や、人形アニメーション最大の巨匠というべきJ・トルンカ(Jiri Trnka)らが巨匠であり、現在ではJ・シュヴァンクマイエル(Jan Svankmajer)代表的な作家である。


 ロシアでは「チェブラーシカ Ceburasla」シリーズをはじめとする人形アニメーションで著しい人気を得ているR・カチャーノフ(Roman Kachanov)のほか、風刺性の強い作品を得意とするF・ヒートルーク(Fedor Khitruk)、切り絵アニメーションで著名なY・ノルシュテイン(Yuri Norshtein)らがアート・アニメーションの有名な作家である。


 旧共産圏では1990年前後の民主化以降、国営スタジオの体制維持も困難となり、以後しばらく、ロシアのアニメーションは勢いを縮小した感は否めない。なお現在でも多くのアート・アニメーションを送り出しているのは、旧ユーゴスラビア時代からのスタジオを有するクロアチア、同じく旧ソ連時代から国営スタジオを有していたエストニアで、いずれもセルアニメーション主体だが、風刺性の強い作品が多く制作されている。その他、ポーランド、ハンガリーも多くの作品を送り出している。(参考文献:アニメーション学入門 津堅信之)