現代アーティストとしての素質

 僕がギャラリストとして経験してきた中で考えるアーティストとしての資質をお話します。

 まず自分にとってよい作品をつくることが大前提です。身も蓋もない言い方ですが、モチベーションがあって、よい作品をつくろうと思い、どういうふうに制作すれうばいいかをつかんで、そこで自分の世界が見えていること、これが第一条件です。

 次に自分の描きたいものや表現したい世界を、客観的に見ることが必要です。自分が置かれている時代や社会歴史や文化の背景と、自分が描きたいものをすり合わせ、自分自身を批評できる能力がなければ、残念ながら、本人にとってよい絵は、本人にとってだけよい絵で終わります。

 

 自分が展示したいとおもうギャラリーを観察することが大事です。僕のギャラリーに来たこともなければ、どういう人がやっているのかも知らないで、作品が展示されている空間も知りもしないで、資料だけを送ってくるアーティスト志願もいます。そういう人は、自分の位置が見えていないのだと思います。自分が制作することだけに没頭するのではなくて、一歩退いて見てみる。作品に対してある程度の距離感が持てないと、作品を社会化することはできません。

 アーティストにとって批判性はとても大切な要素だと思います。村上さんはもちろん、奈良さんの批判性は、動物的勘とでも呼びたいほど長けています。彼は長くヨーロッパで活動して、言葉に苦労しながらも相当いろんな場を踏んでいるはずです。そうして培ってきた批判性なのでしょう。

▼ポートフォリオをチェック
 工藤麻紀子さんは、リンゴの樹の変な絵で印象に残ったのですが、それだけでは彼女がどういうアーティストなのかとうていわかりません。そこで、彼女のポートフォリオ(作品ファイル)を見せてもらいました。5年ぐらいの作品に目を通してみると、今まで何を考え、何に真剣に取り組んできたか、どうやって現在の作品にたどり着いたかがわかります。ポートフォリオを見ればアーティストにとっての大前提である「自分にとってのよい絵」が自覚されていて、描けているかどうかが、わかります。

 工藤さんの作品は、題材も少女っぽいし、マンガのように見える面もありますが、彼女のように独自の色の感覚と塗り方でもって、複雑な多層空間の構成を描ける人は、なかなかいません。絵画性が高く、歴史的な側面もあるのに、かつ新鮮な現代性も帯びている。そしてどこか日本的な表現も見て取れる。

▼要らないものは削る勇気
 ある程度、経験を積んでから自分の作品を見たときに、いい/悪いと自分で判断する力と、悪いものは削っていく勇気を持つことは、アーティストが成長していく中で大切なステップです。この方向だという手ごたえを感じたら、それに合わない作品は外していく作業が必要です。(出典元:現代アートビジネス 小山登美夫)