ジクムント・フロイト「抵抗とのたたかい」

精神分析療法によって立つもっとも基本的な概念は、意識すると不快、苦痛、不安、恥の感情をよびさますような心的内容、感情や欲求を「意識」から「無意識」に追い払い、押し込めようとする「抑圧」である。


そして、この抑圧され、無意識化された感情や欲動は、置き換えられ、変形されて、空想、夢、神経症の症状のかたちで再現されてくる。精神分析療法は、その症状を治療するために、抑圧をゆるめる操作を介して、この無意識を「意識化」しようとする。


ところが無意識を意識化しようとすると、多くの場合、患者がおこす「抵抗」によって阻まれる。つまり、なんらかの感情や欲求が抑圧されて、無意識化されるのは、それを意識することに、激しい不快、苦痛、不安、そして罪悪感が生じるためである。

 

たとえば24歳のR嬢は姉の急死において、それまで抱いていた義兄への不倫な思い「これで義兄さんは身軽になった。わたしは義兄さんの奥さんになれる」という考えを、罪悪感のために抑圧した。

 

それについてはじめのうちはいくらフロイトが指摘しても、その義兄への愛情を認めることができなかった。「恋愛は罪悪」という頑固な抵抗に遭遇しなければならなかった。Rがもし意識すれば、この愛情と道徳的観念(罪悪感)との矛盾に苦しまねばならなかったからである

つまり、精神分析療法は、この「抵抗」する治療者のたたかいというかたちで展開されてゆく。治療者フロイトは、患者の知性と同盟し、二人の共同作業の中で無意識に対する自我の支配権を確立し、心の再構成をはかる。

●追記

元々フロイトの診ていた患者は上流階級の女性が多く、つまり当時のヴィクトリア朝時代の良い教育を受けた人たちで、性的倫理の厳しい環境で育っていたという事情があり、この理論は必ずしも普遍的であるとはいえない。特に、性モラルの低い日本の一般大衆にはフロイトの理論はあてはまらないこともある(エディプスコンプレックスに関しても)。

 

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