日本文明14 日本人と性意識

日本の神話や歌謡など古代の文芸には、性についての表現を抑圧したあとがみられない。直接的描写がおおく、暗喩も単純で、象徴性がとぼしいともいわれる。

このオープンな性へのかたりくちは、古代から中世、江戸期の春本、そして現代にいたるまで一貫して続いてきた日本の特徴である。キリスト教や一神教的な性に対する原罪意識が日本文化にはほとんどない。貴族から農民まで均一して性倫理がなかった。

ただし、江戸時代以降の武家社会のみ、厳しくなった。これは中国の儒教道徳による禁欲的倫理の影響である。また、欧米のキリスト教的ピューリタニズムがはいってきて、明治革命以来、日本の性文化はつよい禁圧を権力によってくわえられる。

男女混浴禁止、猥褻物の販売禁止など、伝統のなかにあった若者組、娘組などをとおしての性教育の慣習も禁圧された。つまり性文化の伝統は近代化、外国と競争する富国強兵をめざすには不適当とされたのである。

もちろんこのような表文化の「近代的禁欲主義」に対して、庶民はそのふるくからの性意識を失ったのではない。それは現代日本のオタク文化やアダルトビデオ文化の発達を見れば明らかなことである。(梅棹忠夫)