劇団イヌカレー「魔術的空間」

劇団イヌカレー / Gekidan Inukare

魔術的空間


概要


劇団イヌカレーは、2007年に活動を始めた日本のアニメーション作家ユニット。元ガイナックス所属のアニメーターである2白犬(白石亜由美)と、元タント所属の仕上げオペレーター・泥犬の2名によって構成される。コラージュを利用して不気味な世界とポップを融合したポップ・シュルレアリスム表現が特徴的である。

 

 

「魔法少女まどか☆マギカ」の世界観を語るうえで外せないのが、「魔女」や「魔女」の手下、そして戦闘時に毎回出現するこれまでのアニメとひと味違う非日常的で不気味な異空間設計だろう。

 

この異空間演出は、平和な日常生活に、突如、非日常なオブジェや異物を介入させることによって、視聴者に先の読めない不安感や想像力を煽り立てる心理効果を発揮している。というのも、まどか☆マギカが、ただのポップな魔法少女アニメではなく、不条理なルールや日常に潜む闇を導入することで、視聴者の期待を裏切る悪夢なストーリーに一転するという世界観を見事に踏襲した演出といえるだろう。

 

この異空間設定を担当しているのは、OAD「獄・さよなら絶望先生」のオープニングアニメーションなどで徐々に注目されはじめたコラージュアニメーション作家の「劇団イヌカレー」氏だ。「まどか☆マギカ」では、イヌカレー氏の個性的なコラージュ表現が色濃く反映された

 

コラージュを使った異空間演出は、商業アニメにおいては目新しく見えるが、ファインアートの世界では一般的に「シュルレアリム」という表現形式に相当するものである。シュルレアリスムとは、アンドレ・ブルトンが1924年に『シュルレアリスム宣言』を出してから始まった表現で(実際はそれ以前からそれらしき表現はあったが)、夢と現実の境目をなくし、2つの異なる世界を並列させることで非現実的で幻想的な世界を描き出すのが特徴である。

 

まず1話の戦闘シーンの20分あたりで一瞬、シルクハットの男性が現れるが、これはルネ・マグリット「LE FILS DE L'HOMME」を引用していることに間違いはないだろう。異なるのは顔に付いている果物が手のひらに変わっているだけである。また同じく1話戦闘で幻想的な空間を馬の影が駆け抜けるシーンは、シュルレアリズム作家のレオノア・カリントンを連想させなくもないし、馬、蝶、植物、交通標識、鉄柵など、識別可能なイメージと抽象化された記号的なイメージとが交錯する表現はジョアン・ミロを連想させるものがある。


シュルレアリスム演出が頻繁に現れる商業アニメとしては、ほかに「少女革命ウテナ」があるが、全体的に少女革命ウテナの影響を受けているのではないかと思われるシーンはいくつかある。

 

たとえば7話の戦闘シーンの影絵は少女革命ウテナの「劇団影絵カシラ」を連想させる。8話の6分前後の背景の動く画面みたいなものとと、全体的な白い背背景は、劇場版ウテナ「アドゥレセンス黙示録」の学校風景と、縦横無尽に動く黒板を連想させるものがある。

 

ただ、ウテナでは黒板だったが、まどマギでは動くオブジェが印刷物の写真や図版、模様、ポスターなどになっており、これらの表現はフォトモンタージュ芸術家のクルト・シュヴィッタースの作品ではないだろうか。こちらは正確にはダダイスムの表現ではある。

 

ほかにロシアのアニメーション作家であるユーリー・ノルシュテインからの影響も見られる。ノルシュテインは、切り絵を使ったアニメーションが得意な作家で、写真や実写映像、文章の引用などさまざまな素材をコラージュするのが特長だ。

 

このロシアの巨匠作家ノルシュテインの影響が強く現れているのが、第7話の佐倉杏子の回想シーンである。ここでは、佐倉杏子の父親やほかのキャラクターが書き割り形式で表現されており、また背景の教会、建築物、街の風景などは実写映像や写真を利用し、それらをうまくコラージュした表現となっている。これはノルシュテンが最も得意とする表現方法で、ノルシュテイン作品の中でも中世のフレスコ画や礼拝堂のシーンがたくさん出てくる「ケルジェネツの戦い」と非常によく似ている。