宮永愛子「変化する芸術」

宮永愛子 / Aiko Miyanaga


概要


宮永愛子(1974年生まれ)は日本の現代美術家。ナフタリンや塩など時間の経過とともに変化する素材を使って、時計や靴といった日用品詩的な感覚で美術作品化するのが特徴である。

 

最もよく利用される素材がナフタリンであり、彼女のトレードマークである。ナフタリンからなる作品は、透明な樹脂の中に封じ込められているが、その樹脂の箱には小さな穴が開けられ、そこはテープで塞がれている。テープをはがすと中にあるナフタリン作品が消えていき、最後は樹脂のケースだけとなった抜け殻のような空間ができあがるというしくみである。

 

ケースの内側のいたる所に、結晶のようなものが付着しているが、これは「昇華」という現象である。密封されたケースの中では、気体になったナフタリンが大気中に発散されず、再び結晶としてケースの内側にあらわれる。それは人間の成長と挫折のはざまに起こる「葛藤」という感情を「昇華」という現象を通じて表現しようにも見える。

 

「消滅」を表現してるといわれることもあるが、基本的には「消滅」ではなく「変化」を表現しているといってよい。樹脂という箱の中に閉じ込められたものが、外部と接続可能な状態になると、徐々に変化が始まリ、最後は違う形態に変化して、元の形はなくなるというものである。

 

なお、ナフタリンに貼られたシールは作品が“お嫁に行く”ことになると、コレクターの方に好きに決めて剥がして欲しいようである。シールをはがせる権利はコレクターだけの特権であるものの、シールをはがすと作品が消えてしまうというある意味残念な結果にもなる。このアイデアはデュシャンの「彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも」に通じるところがある。デュシャンはこの作品で「ガラス」を素材に使っていたが、デュシャン本人談によるとその理由は、絵の具はガラスの中に入れると酸化することなく純粋さを維持できるからであり、そしてまたそのガラスの中のモチーフとして「花嫁」を選んだのだという。

 

また気化していく時計の作品は、サルバドール・ダリの「記憶の固執」を彷彿させる。「記憶の固執」では、ダリにとって「死」を象徴する「アリ」が「時計」のそばに配置されている。ダリは時間というものに対してネガティブな感情をもっていたようである。