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【作品解説】サルバドール・ダリ「レダ・アトミカ」

レダ・アトミカ / Leda Atomica

ガラを浮遊する空間に形而上学的に描く


「レダ・アトミカ」(1947〜49年)
「レダ・アトミカ」(1947〜49年)

概要


作者 サルバドール・ダリ
制作年 1949年
メディウム キャンバスに油彩
サイズ 61.1 cm × 45.3 cm
コレクション ダリ劇場美術館

《レダ・アトミカ》は1949年にサルバドール・ダリによって制作された油彩作品。61.1 cm × 45.3 cm。フィゲラスのダリ劇場美術館が所蔵している。

 

ベースにしているのは古代ギリシア神話の「レダ」で、白鳥と台座に座ったスパルタの神話の女王レダが描かれている。《レダ・アトミカ》では、レダはガラの肖像となり、ダリは白鳥に姿を変えて描かれている。彼女の周囲には本、卵、定規、2つの踏み台が浮遊している。背景はおなじみのカタルーニャのカダケスの海岸と岩である。

神話


神話の背景だが、レダはスパルタ王テュンダレオースと結婚した夜、テュンダレオース王が眠っているときに白鳥に姿を変えたゼウスに犯されてしまう。この二重婚姻問題が2つの卵を産むことになり、最初の卵から双子の兄弟カストールとポリュデウケースが、後の卵から双子の姉妹クリュタイムネーストラーとヘレネーが生まれる。

 

ダリは自分自身をポリュデウケースとみなし、死んだ兄をカストールとみなした。また妹のアナ・マリアをクリュタイムネーストラーに、ガラをヘレネーとみなしている。

論理的構成で描かれた絵画


戦後、ダリは絵画は緻密な計算と構図で描かないとならないと考えはじめる。そのため、レダ・アトミカは黄金比に従って厳格な数学的理論で描かれている。

 

レダと白鳥はダリが作成したいくつかの下絵からなる5つの点(愛、秩序、真理、意志、言葉)を結んでできる五角形におさまるよう描かれている。その五角形は完璧性の象徴だという。この構図はローマ人数学者のマチャ・ガイカから影響を受けているという。

浮遊する世界


 戦後、科学の研究に没頭しはじめたダリは、物質界は固定した重い物質で構成されておらず、互いに浮遊した関係の孤立した物質によって構成されているという考えに取りつかれていた。《レダ・アトミカ》は、その頃に制作された作品で、あらゆるものが浮遊しているのが特徴となっている。

 

しかしこの絵で1つおかしいのは白鳥である。ほかの物質は浮遊しているため影があるが、白鳥には影がついていない。それはこのダリ(白鳥)だけが物質でないことを暗示しており、ダリは自らを精神的存在と考えている。そして、自身とガラとの精神的な結びつきを表現してるという。

 

この絵についてはダリは、浮遊する空間上に形而上の女神であるガラを完璧な構図(五角形)で描くことに成功したと話している。