· 

【作品解説】サルバドール・ダリ「茹でた隠元豆のある柔らかい構造(内乱の予感)」

茹でた隠元豆のある柔らかい構造(内乱の予感)

Soft Construction with Boiled Beans(Premonition of Civil War)

スペイン内乱を的中させた予言的作品


サルバドール・ダリ《茹でた隠元豆のある柔らかい構造(内乱の予感)》,1936年
サルバドール・ダリ《茹でた隠元豆のある柔らかい構造(内乱の予感)》,1936年

概要


作者 サルバドール・ダリ
制作年 1936年
メディウム カンヴァスに油彩
サイズ 100 cm × 99 cm
コレクション フィラデルフィア美術館

《茹でた隠元豆のある柔らかい構造(内乱の予感)》は、1936年にサルバドール・ダリによって制作された油彩作品。100 cm×99 cm。元々はアメリカ人コレクターのウォルター・アレンズバーグ夫妻のコレクションだったが、現在はフィラデルフィア美術館が所蔵している。

 

1936年から始まるスペイン内乱の不安を察知してダリが描いた作品である。この絵画を描いてから6ヶ月後に実際に内乱が勃発した。そうしてダリは「潜在意識には予言力がある」と気付いたという。ダリは次に説明する予言を証明するために、戦後にタイトル「内乱の予感」に変更した。

 

1936年制作とされているが、最近の研究では1934年制作という説もある。

スペイン内戦を予言


 ダリによれば、迫りつつあるスペインの内戦の不安を表現したもので、実際にこの作品が描かれたあとにスペイン内乱が勃発。ダリの不安事に対する予言力が発揮された作品で、ダリは理性で考えた未来よりも、潜在意識・無意識におけるイメージの予言力の高さを認識したという。

 

ほかに予言力を発揮したダリの有名作品では、《新人類の誕生を見つめる地政学の子供》があり、これは第二次世界大戦中の1943年、当時、アメリカに亡命していたときに描いた絵で、第二次世界大戦後のアメリカ繁栄の時代を見事に的中させた。

《新人類の誕生を見つめる地政学の子ども》 1943年
《新人類の誕生を見つめる地政学の子ども》 1943年

今にも分裂しそうな身体と内乱のダブルイメージ


 手と足だけの奇妙な怪物が、首と足と乳房だけの怪物のような生物と取っ組み合いをしている不思議な作品。一見すると2体のように見える、実際は1つの身体であり、これは自己分裂・矛盾を起こし始めているという内面を表現している。

 

怪物の手足や指先が茹でたインゲン豆に見えることから、この題名が付けられており、今にも弾けだそうとするインゲン豆と、今にも起こりそうなスペインの内乱をダブルイメージ表現している。なぜインゲン豆なのかというと、内戦状態にあり貧困に苦しむスペイン人がよく食べていたのがインゲン豆を茹でたスープだったという。

 

また、美しいカタルーニャの空を伝統的な技法で描くと同時に革命的な前衛表現を作品に取り込み、前衛と伝統が対照的となっている。

迫りくる不安を分析する


怪物は木や茶色の箱の上に立っている。背景の空は曇りがかっており、いくらかは暗い部分があり、それも迫りくる不安を表現している。

 

わかりづらいが、画面左下の背後にいるひげ面の人物は、科学雑誌に掲載されていた「心臓マッサージ器の実地指導をしている医師」のイラストからの引用である。また、内戦へと向かいつつあるスペインの内面を診断するダリ自身やジグムント・フロイトを象徴しているともいわれる。

スペイン内戦勃発後のダリ周辺


スペイン市民戦争が発生する2年前の1934年、ダリとガラはゼネストやカタルーニャ分離独立派の武装蜂起の影響を受け、カタルーニャに閉じ込められていた。そのときにスペインの内乱を予感したという。その後、2人はパリへ逃亡し、そこで結婚する。

 

ダリとガラをパリへ誘導してくれた護衛は、2人をパリへ誘導したあとスペインに戻り、スペイン市民戦争で戦死した。

 

内戦後、ダリがスペインに戻るとポルトリガトにあった家は戦争で破壊され、また妹のアナ・マリアは共産主義兵士たちに投獄され拷問を受け、学校以来のダリの友人である詩人のフェデリコ・ガルシーア・ロルカは、ファシストによって銃殺されたことに大変なショックをうけたという。