【画集解説】山本タカト第一画集「緋色のマニエラ」

緋色のマニエラ

平成耽美主義の原点となる幻の初作品集


山本タカト「緋色のマニエラ」
山本タカト「緋色のマニエラ」

概要


オリジナルと復刻版の違い


「緋色のマニエラ」は平成耽美主義宣言以降の山本タカトの第一作品集。


1998年にトレヴィルから発行され、また2001年と2007年に復刻版が「発行:エディション・トレヴィル」「発売:河出書房」という形で発行されている。内容は同じだが、表紙カバーに多少の違いがある。さらに、ほかにも部数限定の特装版などもある。一般的に流通しているのはおおよそ以下の3冊である。


・トレヴィル刊、1998年

・エディシオン・トレヴィル刊、2001年、復刻版

・エディシオン・トレヴィル刊、2007年、再復刻版


古書店などで「緋色のマニエラ」を購入する際に注意したいのはこのバージョンである。私が所持しているものは一般的によく流通している2001年復刻版で左下に「エディション・トレヴィル謹製」と記載されている。


すべて確認していないが、ネット調べてみると1998年版は「トレヴィル謹製」となっており、表紙の唐草模様の色味が薄い。しかしAmazonに出ている1998年版の書影は黒い布張りスタイルであったり(限定特装版「緋色のマニエラ」?)、ネット古書店で販売されているものでも書誌情報に誤りがあるケースが多い。


2007年の再復刻版の新品(サイン付き)がほしい場合は、エディション・トレヴィルからの直接購入がおすすめである。ほかにはスパンアートギャラリーでも販売されている。

1998年トレヴィル謹製「緋色のマニエラ」。復刻版のように唐草模様に赤みがかった部分がない。がない。
1998年トレヴィル謹製「緋色のマニエラ」。復刻版のように唐草模様に赤みがかった部分がない。がない。
1998年トレヴィル謹製「緋色のマニエラ」裏表紙。発行:トレヴィル、発売:リブロボートとなっている。
1998年トレヴィル謹製「緋色のマニエラ」裏表紙。発行:トレヴィル、発売:リブロボートとなっている。
2007年再復刻版。表紙は復刻版と同じ。
2007年再復刻版。表紙は復刻版と同じ。

内容


全体的にボーイズラブ色が強く、和風な設定となっている。

 

描かれているのは、大正から昭和初期にかけて、江戸川乱歩のような世界に出てくる日本家屋やモダン建築の洋館内で性的に悦楽にひたる日本人美男子、美少女、美女たちである。血が滴ったり、贓物や木々と生物と融合したグロテスクな人物造形、ゴシック・ロリータ的な世界観はまったくない。

 

しかし、山本タカトの核の1つである「変曲点」や「亡霊との戯れ」といったモチーフである窓、ふすま、月が描かれている。シュルレアリスム的な表現もややあり、デ・キリコ的な古代ギリシア彫刻や建築が屋外に描かれたり、貝や石や金魚が浮かんでいたり、手首だけが描かれていることがある。

「金魚」(1997年)。画集内で最もシュルレアリスティックな作品の1つ。ルネ・マグリットの「ピレネーの城」のように石が浮き、大きな金魚が少女を見つめている。画面左端には骸骨のようなものが見える。
「金魚」(1997年)。画集内で最もシュルレアリスティックな作品の1つ。ルネ・マグリットの「ピレネーの城」のように石が浮き、大きな金魚が少女を見つめている。画面左端には骸骨のようなものが見える。
「赤い月」(1997年)。誰かわからない手首だけで少女を襲う。カエルが窓枠で首を膨らませ、窓から赤くなった満月の月が少女をのぞいている。お気に入り作品の1つ。
「赤い月」(1997年)。誰かわからない手首だけで少女を襲う。カエルが窓枠で首を膨らませ、窓から赤くなった満月の月が少女をのぞいている。お気に入り作品の1つ。