【コラム】澁澤龍彦「マグリットの冷たい夢」

理性の幻想、冷たい夢

ルネ・マグリット「イメージの裏切り」(1929年)
ルネ・マグリット「イメージの裏切り」(1929年)

ルネ・マグリットには「死んだ自然(物体)」に対する執着がある。


マグリットの世界から伝わってくるのは、時間がぴたりと停止し、すべての物体が物体同士の親しい有機的な関連を失い、静けさである。火星や生命体が存在しないほかのの惑星の地表写真を見たときのような物体の世界である。


マグリットは、どちらかといえば平俗なリアリズムの手法をもって、あるがままの現実の秩序に、ただちょっとした置き換え(デペイズマン)を試みるだけである。ダリのように、奇妙な物体を描くことで、己の性癖を象徴しようとする熱狂性や。エロス的記号はほとんど無縁である。


およそマグリットの絵には、幻想とか夢とかいっても、これはオートマティスムや偶然の手法の介入する余地の全くない、理性の幻想冷たい夢であろう。


マグリットはかつて広告写真のように平板なリアリズムの手法で巨大なパイプの絵を描き、その下に「これはパイプではない」と書き込んだ。これが彼の哲学なのである。マグリットは表現された物体から、意味を剥奪し、パイプならパイプという名前を取り下げて、物自体を提示するのである。(「幻想の画廊から」澁澤龍彦)


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