【作品解説】ポール・デルヴォー「森」

成仏する亡霊と現実化する亡霊


概要


「森」は1948年にポール・デルヴォーによって制作された油彩作品。埼玉県立近代美術館所蔵。


ヌードの女性、汽車、森、月など、ポール・デルヴォー作品ではおなじみのモチーフで画面構成されているものの、これまでの青白い虚無的な質感と異なり、血の気の通った健康的な身体と官能的な表情の女性が描かれている


デルヴォーの絵の中に描かれる青白い夢遊病のような女性は、デルヴォーへの過剰愛を行う母親によって強引に引き離されたタムという女性である。デルヴォーは母親の呪縛に苦しみながら、タムの亡霊をひたすら描き続けていた。


しかし、「森」が描かれた前年の1947年にデルヴォーは、偶然、タムと18年ぶりに再会する。夢が現実となって現れたのである。そんな時期に描かれたのが「森」である。


デルヴォーの作品に頻繁に登場する汽車は、「故郷」「母」「過去」「呪縛」を象徴している。本作「森」における汽車は、手前から奥へ遠ざかっている。つまりデルヴォーの亡霊(故郷、母、過去、呪縛)が遠ざかったことを示唆している(すでに母は他界している)。


また、デルヴォー作品における「森」は、「森の目覚め」などが典型的だが、女性を象徴している。そしてこれまで、亡霊のタムを召喚するように煌々と画面を照らしていた月は、自分の役目は終わったとばかりに樹々にその姿を隠し、月光は弱くなっている。


成仏する亡霊、現実化する亡霊。2つの亡霊がうまく調和した作品なのである。彼のオブセッションとなっていた女性に対する魅惑と虚無感といったものが薄れ、彼の作品にあった性的な緊張は消滅し、この頃からデルボーの作品は光彩に満ちてくる。


デルボーは、そのような状況から自身が影響を受けていることを以下のように語った。


「作品を生み出す芸術家の心は、周囲の人々や生活の仕方、人間関係、その他の変化に関わっている。さらには、様々な出来事-私の場合なら劇的な出来事のはっきりした影響も考慮しなければならない」

 

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