【作品解説】フランシス・ベーコン「ベラスケスによるインノケンティウス10世の肖像画後の習作」

ベラスケスによるインノケンティウス10世の肖像画後の習作

Study after Velázquez's Portrait of Pope Innocent X

古典への創造的再解釈の代表


概要


『ベラスケスによるインノケンティウス10世の肖像画後の習作』は、1953年に制作された油彩作品。1650年にスペインの画家ディエゴ・ベラスケスが制作した『インノケンティウス10世の肖像』をベースにしている。

 

本作は、1950年代から1960年代初頭にかけてベーコンが制作した45以上あるベラスケス・シリーズの中の1つで、この時代のベスト作品とみなされている。

 

ベラスケスのオリジナル作品と比較すると、ベーコン版では教皇の口が開き、叫び声を上げているように描かれている。ベーコンによれば恐怖や不安を表現するために「叫び」を描いているのではなく、「叫び」そのものを描いているのだという。

 

また暗いカーテンと垂直方向の筆致のスピード感が得体の知れない不安感や絶望感を強め、透明なプリーツ・カーテンでできたしわが教皇の顔に陰を落とす効果を出している。

 

イギリスの美術批評家のデビッド・シルベスターは、ベーコンはベラスケスが描く肖像画における教皇の「孤立した立場」に魅了されており、そのベラスケスの絵画における心理的な側面を極端に誇張させて表現していると説明している。

 

また顔のモデルとなっているのは、エイゼンシュテインの『戦艦ポチョムキン』のオデッサの階段で乳母車が落ちて、乳母が叫ぶシーンである。

 

哲学者のジル・ドゥルーズは本作品について、古典絵画に対する創造的な再解釈の代表的作品と評した。

ベラスケス作『インノケンティウス10世の肖像』
ベラスケス作『インノケンティウス10世の肖像』

『戦艦ポチョムキン』のオデッサの階段で乳母車が落ちていくシーン(5分30秒過ぎ)