【美術解説】スペイン・ダリ美術館「ダリニアン・トライアングル」

ダリニアン・トライアングル

カタルーニャにある3つのダリ美術館


スペインを代表する芸術家サルバドール・ダリに関する施設や美術館はスペインにたくさんある。特に重要なのはスペイン北西部カタルーニャ地方にある3つの主要な美術館「ダリ劇場美術館」「ポルト・リガトのダリの家」「プボルのガラの家」からなる「ダリニアン・トライアングル」

 

ダリニアン・トライアングルとは、カタルーニャのダリ関連の3施設を結ぶと形成される約40平方キロメートルの三角地帯で、カタルーニャ州北部、バルセロナよりもかなり北にあり、フランス国境に近い場所にある。

 

これらの施設は全て外観から内装までダリ自身が手を加えて「自分の世界」に作り変えたもので、美術館であると同時にダリ自身の作品でもある。

 

公式サイト:http://www.salvador-dali.org/museus


ダリ劇場美術館(フィゲラス)


スペインで最も有名なダリ美術館


ダリ劇場美術館は、スペインのカタルーニャ州フィゲラスにあるサルバドール・ダリの美術館です。スペインに数あるダリ美術館の中でも最も人気が高い美術館で、ここには、約1万点以上にもおよぶダリの作品を収蔵されています。

 

屋根の上に卵がのっていたり、壁一面にパンのオブジェがくっついているなど、ダリが執着したモチーフが散りばめられているのが特徴です。外観デザインはもちろんダリ自身。

 

建設時、ダリはこのように話しています。

 

「私はシングルブロックの迷宮的なシュルレアリスムオブジェが作りたかった。ダリ劇場美術館は全体としては劇場美術館になっており、来場者は演劇的な夢世界を楽しむことができるだろう。(サルバドール・ダリ)」

 

市民劇場を収容


ダリ劇場美術館の最大特徴は、ダリが子どものときに初めて美術に触れて感動した市民劇場を改修・収容したていることです。市民劇場はかつてダリが洗礼を受けた教会の向かいにあり、ダリの絵が最初に展示された場所ということもあり、強い思い入れがありました。

 

しかし市民劇場は、スペイン市民戦争のときに破壊され、その後何十年も倒壊したままになっていました。そこで1960年にダリとフィゲラス市長は、町で最も有名な市民であるダリの美術館として再建することを決定しました。市議会も再建計画を承認し、翌年に工事を始め、1974年9月28日に美術館がオープン。以後1980年代なかばまで増築されました。

 

ダリ劇場美術館では、コインを入れると車内に雨が降る作品「雨降りタクシー」や「20メートル離れるとリンカーンの顔が見えてくるガラの後ろ姿」など、ダリ作品のなかでも最も大きな作品を中心にダリの数十年におよぶ美術活動で制作された絵画、彫刻など多様なコレクションが収蔵、展示されています。

 

特に人気が高いのは、特定の場所に立つと、メイ・ウェストの顔のように見えるリビングルーム。

ダリの亡骸が埋葬されている


ほかにダリ劇場美術館では、エル・グレコ、ブリューゲル、マルセル・デュシャン、ウィリアム・アドルフ・ブグローなど、ダリが個人的にコレクションしていた芸術家たち作品も展示されています。

 

二階のギャラリーでは、ダリの死後に博物館の館長となり、またダリの友人でもあったカタルーニャの芸術家であるアントニオ・ピトーの仕事場となっています。

 

ガラスのジオデシック・ドームの下は劇場ステージ。ステージの床は赤レンガになっていますが、床の中央の石の部分にダリの亡骸が埋葬されています。

ガラスのジオデシック・ドームの頭頂部。
ガラスのジオデシック・ドームの頭頂部。
ドーム内部。
ドーム内部。
ドーム内部。
ドーム内部。

ポルトリガトのダリの家(ポルトリガト)


ダリの住居兼アトリエ


ポルトリガトのダリの家は、カタローニャ州ポルトリガトにあるサルバドールの美術館。ダリは1930年から1982年に妻のガラが死去するまで、おもにここで生活し、また美術制作をしていました。内部は迷宮的な構造になっており、すべての部屋は異なる形状の窓があります。

 

1930年、ダリとガラは、カダケス郊外の小さな入り江ポルト・リガトにある漁師小屋のひとつを手にいれます。水道設備は井戸水だけで、電気も暖房もなかった小屋を2人は少しずつ改装して、住居にしました。

 

冬にパリに行くほかは訪れる人もまばらなこの家で、ダリは創作しし、ガラは読書をするなどして静かに過ごしました。初めは小さな小屋だった住居は、周りの小屋を買い取るなどして次第に増築され、以後40年以上にわたって拡張されていきました。

増築前の初期のポルトリガトのダリの家。
増築前の初期のポルトリガトのダリの家。
ベンチに座って創作中のダリ。
ベンチに座って創作中のダリ。

ガラの家(プボル城)


ダリがガラにプレゼントした城


プボル城はスペインのカタローニャ州のジローナ県にある古城でサルバドール・ダリの晩年の住処。ガラの亡骸が埋葬されています。

 

1968年にはガラのためにプボル城を購入。ガラは1971年から1980年までプボル城で毎年夏を過ごすようになります。ダリはガラからプボル城に無断に立ち入ることは許されておらず、事前に手紙でガラから訪問許可を取る必要があったといいます。ガラの生前、ダリはプボル城にはほとんど泊まったことがなかったのです。ガラはダリの創作活動を支えるかたわら、奔放で激しい性格のため夫婦関係において互いに自由な関係を楽しむことを好みました。

 

1982年にガラが死去すると、ダリは初めて本格的にプボル城に入城し、そこで生活を始めるようにります。しかし、1984年にベッドルームで火災事故を起こしてダリは大火傷します。自殺を試みたと考えられていたので、事件以後、ダリが死去するまでダリはスタッフの近くで監視されるようになりました。

 

ダリ死後は、1996年にプボル城は「ガラ・ダリ城美術館」として一般公開されました。この古城には、ダリが夫人に贈った絵画や版画をはじめ、ダリの手紙やガラ夫人のドレスコレクションなどが展示されています。



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