【映画解説】ギャスパー・ノエ「カルネ」

カルネ / carnet

馬肉屋の親父と口がきけない娘の物語


概要


「カルネ」は、1991年にギャスパー・ノエによって制作されたフランス映画。フィリップ・ナオン(父役)とブランディーヌ・ルノワール(娘役)が主演。口がきけない娘と馬肉屋の親父の物語で、ギャスパー・ノエの初長編映画。なお本作の続編は1998年に制作された「カノン」である。

ストーリー


タイトルの「カルネ」とは馬肉のことだが、その色と安さからフランスでは軽蔑的な意味が含まれている。


肉屋の店主の妻は女の子を出産後、2人を残したまま出て行ってしまう。屠畜という職業上のためか男は周囲から蔑まれ孤独にみえる。そうした中、唯一の家族である一人娘を溺愛する偏執的な生活が続く。 

 

ある日、娘に初潮が訪れる。スカートの血のシミを見た父は、男に襲われたと勝手な妄想を起こしてし近くにいたと見られる若者を殺して、投獄されることになる。しかし、刑務所生活で娘と離れることで自分を見つめなおすきっかけになり、男に心の変化が現れるように……

 

この映画は社会的に孤独な男の一人娘への屈折した愛と、娘に対する執着から離れて成熟することがテーマとなっている。娘はしゃべれない設定されているのは、おそらくこの父親の娘への愛がす一方的なものであると強調したいからだろう。まったく口の利けない娘は、かわいがってくれている男が「自分の父」であるかどうか認知しているのも怪しく、また男は父である自分のことを愛してくれているのか分からないことに悩む。

 

しかし、逮捕されて保釈後、保釈金返済のため馬肉屋を売りわたし、バーの太った中年女の情夫になるのをきっかけに、過去(馬肉屋)を精算し、溺愛する娘とも距離を取り、そして別れ離れ、男は新しい人生に旅立つことで成熟を迎える

 

やっと正常な親子関係になれたはずなのに、馬肉業をたたむこと、馬の頭を叩き切ることで、親子は別れなければいけなかったのである。

 

これらのすべては、冒頭の過激的な「死(カルネの終わり)」と「生(出産)」のシーンが伝えている。