【美術解説】ヴィム・デルボア「身体に焦点を当てた現代美術家」

ヴィム・デルボア / Wim Delvoye

身体に焦点を当てた現代美術家


概要


ヴィム・デルボア(1965年生まれ。ベルギー、ウェストフランドル州)は、大便製造機械など、独創的で衝撃的なアートプロジェクトで話題を呼ぶことが多いベルギーのネオ・コンセプチャル・アーティスト。

 

作品のコンセプトの多くは「身体」に焦点を当てたものとなっており、矛盾している要素が1つに統合された作品、たとえば「嫌悪感」と「魅力」という要素が1つになった作品を繰り返し制作している。

 

さまざまな象徴を用いて装飾性の高い彫刻を手がけるのも得意としており、バロックやゴシックといった古典的な芸術様式と、ブランドロゴや排泄物などの現代消費社会のモチーフを融合し、「美と醜」「性と生」「伝統と現代」という相反する要素を融合した作品を制作している。

 

これまでベルギーに住んで作品を制作していたが、ピッグ・タトゥープロジェクトが裁判で違法という判決を下されたあと中国に移住。現在、横浜トリエンナーレ2014に参加している。

 

Cloaca


デルボア作品でおそらく最もよく知られているのが、多数の学者や技術者たちの協力を得て8年という製作期間で2000年にアントワープ現代美術館で発表した消化器官機械『Cloaca』だろう。Cloacaとは人工的に大便を作ることだけを目的にしたこの巨大な機械装置である。

 

「Cloaca」という名前は、通常の名詞としては、カモノハシのように産卵用と排便用が兼用で1つになっている原始的な肛門、総排出口を指している。しかし、ロゴマークはフォード自動車やコカ・コーラなどの企業のロゴデザインを皮肉っているような趣があり、実際にコカ・コーラやミスタークリーン社からの提訴によって使用の是非が法廷で争われた。

 

デルボアによれば、機械の大黒柱になっているのは大便を作るバクテリアであり、機械を構成する各種のさまざまな装置は、Cloacaに取り込んだモノをバクテリアが食べやすいように作り変える装置で、膵臓から外分泌されるパンクレアチンや胃酸、各種の酵素などを投入する役割をしているという。

 

Cloacaは、通常は美術館などでの展示期間のみ、大便を製造し続けるのだが、食事は定時に毎日2回ずつ規則正しく与えられ、作者の望む遠隔地のどこからでもインターネット経由で大便の製造を操作ができるシステムが構築されている。