【コラム】タロットカードや家系図を使ったホドロフスキーの心療活動

ホドロフスキーと心療活動

タロットカードや家系図を使った心療


ホドロフスキーは、16世紀から18世紀頃のヨーロッパで神秘主義者やオカルティズムの影響が強いマルセイユ版タロットカードの研究とそのオリジナルの復元に役10年ほど費やしている。

 

タロットカードの研究を通じて、ホドロフスキーは、「サイコマジック」「サイコジャ二ラジー(心霊学)」「イニシアティック・マッサージ」という3つ分野でより心療的な活動を深めていくようになった。

サイコマジック


サイコマジックは、ホドロフスキーが創始した心療行為の名称である。

 

芸術、東洋哲学(特に禅)、神秘主義、近代哲学を融合した思想で、心に問題を抱える患者を癒やすことを目的としている。ホドロフスキーは、自身をフロイトと対置した上で、サイコマジックは科学が基礎とされる精神分析的なセラピーではなく、アートとしてのアプローチから生まれたセラピーであると語る。

 

この心療行為では、無意識のパフォーマンスを作用させて抑圧されているトラウマを解放する。真実の抑圧によって無意識に発生した象徴的な行為を認識する。その噴出した無意識的な象徴行為は、非理性的な衝突を解決する手助けになるという。

 

2020年に公開されたホドロフスキーの映画『ホドロフスキーのサイコマジック』にその詳細が描かれている。

これらのパフォーマンスは次に紹介するサイコ・ジャ二ラジーで、患者の性格や家系図を研究した後、セラピストの指示に従って行われる。

サイコ・ジャ二ラジー


サイコ・ジャ二ラジー(心の系譜学)は、患者の潜在能力を発揮できるようにするため、また患者が生きてい行く上で、正しい行動(納得の行く行動)を選択できるようにするために、患者自身の性格や家系図を研究し、患者のアイデンティティの強化や回復をはかるものである。

 

家系図を作っていくことで、隠されていた物事が明らかになる。たとえば、祖先の誰かのある感情や欲望が私達と共通の無意識層に渦巻いていて、親や祖父母たちと同じように自分たちも不幸な出来事を繰り返す。それを避けようと必死にあがいているにもかかわらずある。

 

それら、自分が怖れていることや忌み嫌っていることは、実は深層心理のなかでは欲していることの可能性があるからであるという。そういうことを積極に知っておくことで、意識と無意識のバランスがとれるようになる。

 

これとよく似たものでは、バート・ヘリンガーが創始した「ファミリー・コンステレーション」があり、現象論的方法を利用した心理医療である。

 

サイコ・ジャ二ラジーについて、家系における共通的無意識においてホドロフスキーはこう話す。

 

「全ての人間がこれをするべきだ。そうでないと、自分を知ることができない。

我々は個々に独立して生きていると思っている。家族と絶縁したとしても、我々の中にはこの家族が生き続ける。

 

僕は母との関わりを恐れた。母は父ともに多くの問題を抱えていた。母は決して私に優しく接したことはなかった。僕は、1953年にチリの家族のもとを去った。それ以降は電話さえしたことはなかったんだ。しかし彼等は僕を無意識層のうちで活発に支配し続けていた

 

50歳のときに夢を見た。母がソファに寝そべって私に話しかけている。「アレハンドロ、私は死んでいる。」それで心の呪縛は解放した。夢が覚めたあと、連絡のとらなくなった母に手紙を書いて送ってみると、手紙は母が死んだ次の日に到着したんだ。驚いたことに夢で母が出てきた告げた死は本当だった。

 

それで僕は無意識に気づいたんだ。死んでも私達に生き続けていると。少なくともひいおじいさん、ひいおばあさんの代から今に至る家族全員(親戚ももちろん含めて)欲望や憎しみ悲しみなどの感情が、我々の深層心理で生き続けているということ」と話す。 

パリを中心に開催される講義


ホドロフスキーは治療に関する本をいくつか出版しており、その中には『サイコ・マジック:神聖な罠』や自伝『リアリティティのダンス』など、かなりの本を出版している。

 

データによれば、小説、哲学論文、数十のインタビュー記事を含めて20冊以上の本を出版している。ホドロフスキーの著作はスペイン語圏とフランス語圏で広く読まれているものの、英語圏ではほとんど読まれていない。

 

約四半世紀以上、ホドロフスキーはフランスを中心に世界中のカフェや大学などで、無料の「サイコマジック」の教室や講義を開いてきた。基本的な講義はタロット占いを使ったトークショーのようなもので、水曜日の夕方に開催される。そこには何百という客が集まり、客を巻き込むかたちで、サイコ・マジックやサイコ・ジャ二ラジーのライブ・デモンストレーションが行われる。

 

悩みを持っている客の話を聞いて、タロットカードをひかせる。そこから、客の生い立ちをずっと聞きながら、ホドロフスキーがトラウマとなっているものに関して助言するという流れとなる。

 

心療セラピーの講義でホドロフスキーは、家族や親戚など数多くの世代間で育まれてきた無意識は、大人になっても精神に作用し強迫観念を引き起こすサイコ・ジャニラジーを生徒たちに教え、ホドロフスキーの哲学を受け継ぐ学生たちを中心とした基盤を育んできた。

 

この四半世紀にわたるホドロフスキーの心療セラピー活動は、ホドロフスキーの全活動のなかで最も重要であると考えている。

 

2011年からは月に一度のペースで開催されており、現在ではパリの「リブレアリー・レ・セント・シエル」で開催されている。