【作品解説】マルセル・デュシャン「花嫁」

花嫁 / Bride

機械に置き換えられた花嫁


マルセル・デュシャン《花嫁》1912年
マルセル・デュシャン《花嫁》1912年

概要


作者 マルセル・デュシャン
制作年 1912年
メディウム 油彩、キャンバス
サイズ 55.25 x 89.5 cm
コレクション フィラデルフィア美術館

《花嫁》は1912年にマルセル・デュシャンによって制作された油彩作品。ミュンヘンに2ヶ月間滞在していた時期に描かれた作品群《処女 No.1》《処女 No.2》《処女から花嫁への移行》《花嫁》《飛行機》の1つに当たる。

 

《花嫁》では、これまでのように《ヌード、汽車の中の悲しげな青年》や《階段を降りる裸体 No.2》のような運動の変化を表示する線は表れない。《花嫁》では代わりに機械的要素と内臓的フォルムで描かれ、複雑に組み立てられたアンドロイドのようである。つまり、デュシャンは「花嫁」を機械に置き換えた。

 

《花嫁》の制作メモには、各部の色彩について、それぞれ顔料の混色が「ピンク-明るい焼き黄土。褐色の基調-いくらかの明るい焼き黄土と白をくわえたシナエ土」。「雲母」「ニッケル」「木」「ガラス」などさまざまな素材をメモしている。

 

なお、1912年2月にパリで開催さたアンデパンダンに出品された「階段を降りる裸体 No.2」や1911年から12年に描かれた《ヌード、汽車の中の悲しげな青年》の半年後に制作されたものであるため、ちょうどキュビスムや運動の変化に対する興味をなくし、機械に対する関心を移しはじめたころの作品である。

 

次に《花嫁》とは何か。文化史家のジェロルド・シーゲルは、「花嫁」とは、女へ、または妻への移行過程で生じる形態であるという。また。デュシャンの《グリーンボックス》のメモ書きには、たとえば花嫁を「処女性の権化」や「オルガスムに達する前の最後の状態」と書いたものがある。花嫁とは、ことばを換えれば、待ち受ける状態、遅延された純潔なのである。

 

のちの《彼女の独身者によって裸にされた、花嫁さえも》の習作的な作品であることがわかる。事実、この《花嫁》は、画家としてのデュシャンの油絵の頂点を示していると、同時にデュシャンのほぼ最後の油絵ともいうべき作品である。また、これ以後、油絵は1918年の《Tu m'》と《チョコレート磨砕器》の2点のみとなる。

 

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