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【美術解説】サルバドール・ダリ「心理学から科学へ移行したダリ」

心理学から科学へ興味を移したダリ

不確定性原理


「記憶の固執の崩壊」
「記憶の固執の崩壊」

戦後、ダリは20世紀に起きた量子力学の誕生をきっかけに科学へ関心を深めていった。

 

ドイツの物理学者ヴェルナー・ハイゼンベルク不確定性原理に大変な影響を受け、1958年の自著「反物質宣言」でこのように書いている。

 

「シュルレアリスムの時代、私はジグムント・フロイトに影響を受けて、フロイトの素晴らしい内面世界の視覚化を探求し続けた。フロイトは私の父であった。しかし今は、物理的な意味での外の世界に興味を持ち始めた。本日より私の父はドクター・ハイゼンベルクである。」

 

科学への関心が明確に作品に表れはじめたのは、1954年の《記憶の固執の崩壊》である。そこでは《記憶の固執》の断片化と崩壊の様子を描いているが、要約すればこれは過去のダリとの決別であり、新しいダリの誕生を表現している。

ファン・デ・エレーラの「立方体理論」


ダリは、かつてスペイン国王フェリペ2世に仕えて、エスコリアール宮の大建築を手がけたファン・デ・エレーラの立方体理論に基いて《磔刑》を制作している。

 

「十字架は超立方体であり、キリストの身体は、8つの立方体のひとつと合体しながら、形而上学的には第9の立方体となる。9という数字はキリストの神聖の神学的象徴でもある」『立方体論より』

カタストロフィ理論


またダリの最後の油彩作品《ツバメの尾》では、数学者ルネ・トムの数学理論「カタストロフィ理論」を基盤にした作品を制作している。ダリは、トムのカタストロフィー理論を「世界で最も美しい数学理論」と絶賛していた。


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