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【作品解説】アンリ・マティス「帽子の女」

帽子の女 / Woman with a Hat

フォーヴィスムの原点となったエポック作品


アンリ・マティス《帽子の女》1905年
アンリ・マティス《帽子の女》1905年

概要


作者 アンリ・マティス
制作年 1905年
メディウム カンヴァスに油彩
サイズ 80.65 cm × 59.69 cm
コレクション サンフランシスコ現代美術館

《帽子の女》は1905年にアンリ・マティスによって制作された油彩作品。80.65cm×59.69cm。サンフランシスコ現代美術館が所蔵している。

 

1905年の第二回サロン・ドートンヌで展示するために描かれたもので、マティス周辺の画家たちが“フォーヴィスム”と呼ばれるきっかけとなったエポック的な作品である。

 

批評家のルイス・ボークセルズは、アンドレ・ドランやそのほかのメンバーたちと展示していた部屋で、その原色を多用した強烈な色彩の絵画とほかのマティスのルネッサンス風の彫刻を比較して、「この彫像の清らかさは、乱痴気騒ぎのような純粋色のさなかにあってひとつの驚きである。野獣(フォーヴ)たちに囲まれたドナテロ!」と叫んだという。ボークセルズのこのコメントは新聞『Gil Blas』の1905年10月17日号に掲載され、話題を呼んだ。

 

また、マティスが初期に影響を受けていた印象派の分割描法からシフトしたターニング作品でもある。

モデルは当時の妻アメリー


 モデルとなっているのはマティスの妻のアメリー。アメリーはフランスのブルジョアジー女性の典型的な象徴として、手の込んだ衣装を身につけて描かれている。手袋を身につけ、手には扇子を持ち、頭に豪華な帽子を被っており、彼女の衣装は非常に鮮やかな色合いで、純粋であり、豪奢な感じが出ている。

 

のちにマティスに、当時マティス夫人が絵のモデルをしているときに着ていた実際の服の色合いを尋ると「もちろん、チープなブラックさ」と答えたという。

 

マティスによれば現実の色合いをリアルに描く必要なく、作者の心や感情を軸に、自由きままに色彩表現されていればよい。それこそが、フォーヴィスム表現である。

マティスとアメリー。
マティスとアメリー。

作品の所有者


作品はマティスやピカソのコレクターで知られるガートルード&レオ・ステインが購入している。そのため当時は不評を買った作品だったが、マティスにとって大コレクターが購入してくれたことは大きな励みとなった。

 

最終的にはガートルードとレオの弟のミヒャエルの妻であるサラ・ステインが購入者となった。レオ・ステインははじめこの絵が好きではなかったという。

 

マダム通りにあったサラ&マイケル夫妻の自宅で、この絵が飾られていた。また1950年代に作品はアメリカ、カリフォルニア州、パロ・アルトにあるサラの自宅の目玉作品として飾られていた。

 

その後、ハース一族が絵を購入し、1990年にエリス・S・ハースがサンフランシスコ近代美術館に「帽子の女》を含む約40のマティス作品を寄贈した。