【美術解説】抽象芸術「造形要素自体で構成される美術」

抽象芸術 / Abstract art

造形要素それ自体で構成される作品


概要


抽象芸術とは、現実世界における具体的な対象を写しとらず、形状、形態、色、線といった造形要素それ自体を使って構成される作品。現実という表層の下に隠れた世界の本質(骨組みや構造など)を表現することを目的としている。

 

西洋芸術はルネサンスから19世紀のなかばまで、できるかぎり現実の世界(目で見える世界)をそのまま忠実に再現しようと努力してきた。

 

しかし、19世紀の終わりごろから写真や科学が浸透し始めて、絵画の存在意義が低下してくると、これまで画家たちの顧客だった教会からの支援が減少する。生活に危機感を感じた多くの芸術家たちは、絵画に対して新しい価値観を提示する必要に迫られた。

 

そうして、目に見えないものを描こうとするさまざまな新しい美術(近代美術)が現れ始めた。内面を表現しようとフォーヴィスムやシュルレアリスム、複数の視点から世界を描くキュビスム、速度を描く未来主義などである。

 

この新しい絵画はかつての顧客であった教会よりも、一般人、特に富裕層や哲学者たちに受けいられるようになった。芸術家の顧客は教会から富裕層へ知識人へ移行した。抽象芸術もこうした流れの中で発生して、受けいられるようになった。

 

20世紀以前から抽象絵画は存在し、たとえば日本や中国の水墨画、イスラム世界の装飾芸術など西洋以外のほとんどの芸術は抽象芸術だったが、最初に意図的に抽象絵画を制作したのはワシリー・カンディンスキーで1910年とされる。ほかに最初期の代表的な抽象画家としては、ピート・モンドリアンフランシス・ピカビアカシミール・マレーヴィチパウル・クレーなどが挙げられる。

 

また、抽象芸術は大別して、色彩で人間の内面のエネルギーを表現する「熱い抽象」と、合理的な幾何学形態により純粋造形に徹する「冷たい抽象」の二つの方向がある。

ワシリー・カンディンスキー『円の中に円』(1923年)
ワシリー・カンディンスキー『円の中に円』(1923年)
ピート・モンドリアン『コンポジション2 赤、青、黄』(1930年)
ピート・モンドリアン『コンポジション2 赤、青、黄』(1930年)