【作品解説】草間彌生「ウォーキング・ピース」

ウォーキング・ピース

ニューヨーク在住の草間の孤独感を表現


概要


「ウォーキング・ピース」は、1966年の草間彌生のパフォーマンス・アート。着物を着て傘をさした草間が、ニューヨークのストリートを歩きまわるシーンを25枚のカラースライド写真に収めたものである。

 

着物は草間にとって日本の女性の伝統的な習慣を象徴していると考えられる。傘は本当は黒傘だが表面は白く塗られており、偽物の花束で装飾されている。そうした格好で草間はよく分からない未知のニューヨークのストリートを歩いている。

 

アメリカの中心地で日本の伝統的な衣装を着て歩く姿に周囲から異様な目が向けられる。最後は、草間は理由もなく身体を反転させ、泣き始め、最後は視界から離れて見えなくなる、という内容である。

 

このパフォーマンスは、アジア系アメリカ人の女性がアメリカで直面するステレオタイプを表現している。しかしながら、ニューヨーク在住で前衛芸術家として地位を確立した草間の場合、この状況は異なる意味合いがある。この作品は草間がニューヨークに移ってから9年後に作成されたものである。着物は文脈を変えて「伝統」から「異文化融合」によるポジティブな意味あいにもなる。

 

草間はもともと保守的で厳しい日本の家庭で育った。家族からの圧力が原因で、彼女は精神病に患わり、彼女は水玉の幻覚が見えるようになった。その後の日本での芸術活動も家族と同じく草間にとっては大きなストレスになる。こうした環境からなんとか逃れるため草間は、1957年に日本(家族)を捨ててアメリカへ移る。移るやいなや草間はハニングやパフォーマンスなどで国際的なアートシーンで成功するものの、巨大な街ニューヨークで疎外感を感じたという。