【作品解説】エドヴァルド・ムンク「病気の子ども」

病気の子ども / The Sick Child

トラウマとなった14歳で亡くなる前の姉の姿


エドヴァルド・ムンク《病気の子ども》(1885-1886年)
エドヴァルド・ムンク《病気の子ども》(1885-1886年)

概要


作者 エドヴァルド・ムンク
制作年 1885-1886年
メディウム 油彩、キャンバス
サイズ 120 x 118.5 cm
コレクション ノルウェー国立美術館

《病気の子ども》は、1885年から1886年にかけてエドヴァルド・ムンクによって制作された油彩作品。同じタイトルが付けられた6つの絵画とたくさんのリトグラフ、ドライポイント、エッチングが存在し、これらは1885年から1926年にかけて制作されている。すべて14歳で結核で亡くなったムンクの姉ヨハンナ・ソフィー(1862年ー1877年)の死ぬ前の様子を描いたものである。

 

画面左側に病床の赤髪の女性がソフィーである。隣にいるうつむいている黒髪の女性は、当時のムンク兄妹の育て親だった叔母のカレンだと思われる(母はすでに亡くなっており叔母が面倒をみていた)。

 

ソフィーは大きな白い枕に頭を置いている。大きな白い枕の後ろには、半円の大きな鏡が隠されている。下半身は重たそうな黒い布団にかぶさり、蒼白になって苦しみながらも、どこか明るい色味で描かれており、彼女は黒いカーテンの方向を見つめている。多くの美術研究者は黒いカーテンは死の象徴と解釈している。

 

一方、彼女に付きそう叔母は、ソフィーの手をしっかり握りしめて励まそうとしているものの、彼女の苦しむ姿を直視することができないのか、うつむいている。手を握る叔母の手は色濃く強調して描かれていることから、彼女の手を強く握りしめているのが伝わっている。

 

幼少期のムンクにとってこの光景は深いトラウマとなり、以後、繰り返し同じタイトルの異なるバージョンを制作している。

 

また《病気の子ども》以外の作品でも、このうつむいて悲しむ黒髪の人物と死を迎えた赤髪の女性という構図はさまざまな作品に現れる。たとえば《愛と痛み》の赤髪の女性とうつむく黒髪の男性の構図は、《病気の子ども》を基盤としていると思われる。

エドヴァルド・ムンク「愛と痛み」(1895年)
エドヴァルド・ムンク「愛と痛み」(1895年)