【作品解説】サルバドール・ダリ「パンの籠」

パンの籠 / Basket of Bread

ダリの芸術的成熟を示す崇高で敬虔な静物画


サルバドール・ダリ「パンの籠」(1926年)
サルバドール・ダリ「パンの籠」(1926年)

概要


「パンの籠」は、1926年にサルバドール・ダリによって制作された油彩作品。テーブルに置かれた籠の中にある4枚に分けられたパンを描いた静物画である。

 

後のシュルレアリスム作品と異なり、ダリのアカデミックな絵画技術の高さを示した敬虔な作品である。これを描いた当時のダリは22歳で、マドリードの美術学校を卒業したばかりだった。本作はダリにとってアカデミズムの卒業制作的な意味合いが強く、スペインの伝統的な静物画の描き方を真面目に踏襲している。

 

また、本作は1928年にピッツバーグのカーネギー研究所で、ほかの2つの作品とアメリカで最初に展示されたのダリの記念的作品でもある。

フランシスコ・デ・スルバランの影響


 ほとんど真っ黒な背景に反するような幻想的で劇的な光の使い方は、スペインの画家フランシスコ・デ・スルバランの「レモン、オレンジ、薔薇のある静物」の静物画影響を受けている。彼はベラスケスと同時代の画家であり、敬虔さと静物絵画美の画家として名高い巨匠だった。

フランシスコ・デ・スルバランの「レモン、オレンジ、薔薇のある静物」
フランシスコ・デ・スルバランの「レモン、オレンジ、薔薇のある静物」

日常生活と結びつくオランダ絵画の伝統


またパンは、カタルーニャ人の生活として欠かせないものとして描いた。日常生活と結びついた絵の描き方はオランダ絵画の伝統である。ヨハネス・フェルメールやランシスコ・デ・スルバランと同じく、ダリもパンを崇高な日常生活における静物画のシンボルとして描いた。

ヨハネス・フェルメール「牛乳を注ぐ女」部分。
ヨハネス・フェルメール「牛乳を注ぐ女」部分。

アカデミズム絵画の習熟と新たなる美術的探求


これを描き上げたダリは、アカデミズム絵画を習熟したという達成感に自己満足し、以後、より難しい主題やアカデミズムに反するような美術的探求を行うようになる。シュルレアリスム運動に参加し、たとえば「カタルーニャのパン」「回顧的女性像」などが、これ以後のダリのパン作品として有名である。

 

のちにダリはが絵画でパンを利用するときはこのように説明している。

「パンは私の作品において、最も古いフェティシズムや強迫観念を象徴するモチーフで、私が最も真面目だった頃を思い出すモチーフである。私は同じ主題を最初に19年前(22歳)にも描いたことがある。」