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【作品解説】フィンセント・ファン・ゴッホ「糸杉と星の見える道」

糸杉と星の見える道 / Road with Cypress and Star

ゴッホ自身の中にある強い死の予兆を反映


フィンセント・ファン・ゴッホ「糸杉と星の見える道」(1890年)
フィンセント・ファン・ゴッホ「糸杉と星の見える道」(1890年)

概要


作者 フィンセント・ファン・ゴッホ
制作年 1890年
メディウム 油彩、キャンバス
サイズ 92.0 x 73.0 cm
コレクション クレラー・ミュラー美術館

《糸杉と星の見える道》は、1890年にフィンセント・ファン・ゴッホによって制作された油彩作品。ゴッホが糸杉を主題に置いた主要作品の1つとしても知られており、フランスのサン・レミ・ド・プロヴァンスで制作した最後の絵画作品である。現在はクレラー・ミュラー美術館が所蔵している。

糸杉にオベリスクや天路歴程を見出したゴッホ


糸杉というモチーフは常にゴッホの頭の中を占領していたもので、糸杉に対して「美しい線」を見出し、古代エジプトの記念碑として有名なオベリスクに相当する扱いとしていた。

 

美術史家によれば、《糸杉と星の見える道》は、プロテスタント世界で最もよく読まれた宗教書の『天路歴程』から影響を受けていると指摘している。『天路歴程』に糸杉と大きな道のシーンがあるという。ゴッホ自身は手紙でゴーギャンの《オリーブ園のキリスト》とよく似た主題であると説明している。

 

ゴッホは1888年にアルルに滞在したころから糸杉が見える夜景の絵画を制作しはじめた。

ナヴォーナ広場のオベリスク
ナヴォーナ広場のオベリスク

糸杉を「死のオベリスク」として表現


キャサリーン・パワーズ・エリクソンによれば、本作はサン・レミ・ド・プロヴァンス滞在初期の《星月夜》よりも、ゴッホ自身の中にある強い死の予兆を反映している作品だと見ている。彼女によれば、画面右側にある三日月と、画面左のほとんど見えない夜空を比較することで、ゴッホが伝えたいことが理解できるという。

 

中間に位置する糸杉の木は、それらは新しさと古さの象徴を分断しており「死のオベリスク」を表現しているという。

 

また、画面下部に描かれている旅行者のペアは、ゴッホの旅仲間の必要性を表現しているという。二人の旅行者とその旅の運命は、中央にある糸杉に支配されている。

 

また、夜空に描かれている風景は、1890年4月20日の天体状況と関連があるとされ、水星、金星はシリウス座に匹敵する輝きを発していた時期であるという。