ゾンネンシュターン「業の円環」

フリードリヒ・シュレーダー・ゾンネンシュターン(Friedrich Schröder-Sonnenstern)。1892年、リトアニア生まれ。ドイツ語の「太陽Sonne」「星(Stern)」からなり、自らを「月の精の画家」と称した。

 

子どものころから孤独で、しかもやっかいな性格。皮肉で、批判的で、ほとんど病的なほど理屈っぽい。14歳のときに感化院に入れられ、たびたびそこを脱走。18歳のときに放浪に出、曲馬団の馬小屋の掃除夫をしたり、道化芝居の舞台にたったり、キャバレーに出演したりする。盗みの嫌疑で捕縛され、精神病院に押し込められる。

 

第一次世界大戦勃発にあたって徴兵されるものの、兵役につくのが耐えがたく、精神病者であることを主張して兵役から解放される。軍医いわく「遺伝的欠陥、白痴、精神薄弱」と。1917年、郵便局に勤務し、ロシアとリトアニアの国境近くで集配人となるが、密輸者として逮捕され、またも精神病院に押し込められる。一年後、脱走するが、憲兵につかまり今度は監獄へ送られる。ここで第一次世界大戦集結を迎え、釈放される……

 

以後、上記と同じような問題を起こしては病院に入れられ釈放されるという円環的な人生を過ごすことになる

 

渦巻きと、ハート型と、蛇の大好きな画家ことゾンネンシュターンは、常にその世界をシンメトリカルに構成しつつ、大きな円環と小さな円環とが互いに照応する、奇妙なシンボリックな小宇宙を画面に創造しなければ気がすまないらしい。ソンネンシュターンの偏愛する、このシンメトリー円環的形態のパターンは「中心のシンボリズム」といわれるものである。


ゾンネンシュターンの絵画的宇宙は、まさしく「中心のシンボリズム」に支えられており、中心のシンボリズムを愛するものの特徴は「反歴史」的志向である。分裂症的な気質の人間の胸中にも、この反歴史的な願望が潜んでいるという。彼らにとって、歴史とは罪悪であり、過誤であり、歴史に対する恐怖は、原型と反復への回帰によって鎮静されるようだ。


この円形をなす宇宙を創造する美術家にとっては、世界の中心は自分自身であり、そこは世俗的な空間とは異なる空間、自ら神と同化して超越的な空間である。ゾンネンシュターンは、神の天地創造を真似する香具師なのである。彼らにとって、美術的文脈ほど嫌悪をもよおすものはない

 

「芸術的芸術はわたしと無縁である。歴史の道徳も同様である。有用な芸術は外部に求めず、重点は内部のみに置かれ、それによってやがて詩にまで結晶する。それこそ重みのある道徳である。」

 

なるほど、みずから「芸術的芸術はわたしと無縁である」とうそぶいているように、ゾンネンシュターンは、規格外の芸術家、外道の芸術家でもあろう。「神の香具師」というのもそういうこどえある。しかしそこに、彼の病理学を越えたモラリスト的真骨頂がある。


このような系列に属する画家としては、やはりヴィクトル・ブローネルやマックス・ウェルター・スワンベルクなどが挙げられるだろう。ゾンネンシュターンはリトアニア生まれだが、どうやら東欧や北欧の寒冷地には、魔術的、秘教的、分裂症的精神を育成する伝統があるのかもしれない。(幻想の画廊から 澁澤龍彦)