【作品解説】サルバドール・ダリ「新人類の誕生を見つめる地政学の子供」

新人類の誕生を見つめる地政学の子供

Geopoliticus Child Watching the Birth of the New Man

新人類はアメリカから誕生する!


「新人類の誕生を見つめる地政学の子ども」(1943年)
「新人類の誕生を見つめる地政学の子ども」(1943年)

概要


「新人類の誕生を見つめる地政学の子供」は1943年にサルバドール・ダリによって制作された油彩作品。44.5 X 52 Cm。アメリカ、フロリダにあるダリ美術館が所蔵しています。

 

第二次世界大戦勃発後、1940年から1948年までアメリカに滞在していたときに描いたもの。近代美術の抽象性に反発してルネサンス古典絵画やカトリックからインスピレーションを受けていた時期の作品で、また、個人的なビジョンから普遍的なビジョンへ移行しようとしていた時期のターニングポイントとなる作品。

 

当時の第二次世界大戦の状況やその後の世界を暗示した社会的要素の強い作品です。

地球を支配する超人はアメリカである


卵の形をした地球から出てこようしているのは新人類です。その新人類野誕生を両性具有的な人物と、その人物にしがみついた子ども(地政学の子ども)がおそるおそるみつめています。

 

ダリはナチス時代、地政学に関心を抱いており、当時、ドイツの地政学者として有名だったカール・ハウスホーファーに関心を抱きます。彼がいうにはさらにナチスのルーツとなっているのがベルリンにあるオカルト結社のヴリル協会だったといいます。ヴリルとは地球内部の巨大な洞窟に住む超人で、ある日、超人は地球を支配する計画を立てるといいます。

 

しかし、 ダリはこの超人の物語からインスピレーションを得て、新人類の誕生地をヒトラーの第三帝国ではなくアメリカ合衆国に設定しました。第二次世界大戦を終結させ、地球を救済するのはアメリカであると考えていました。そのため、新人類が誕生する場所、殻を破る場所がアメリカになっているのがわかります。

 

 

ただ、ダリは1940年から1948年まで、アメリカに亡命していたこともあって、超人が生まれる場所をアメリカに設定したのかもしれません。

アフリカ、南米、太平洋まで支配は伸びる


 また、殻を破って出て来る際に、左手はしっかりとイギリスの位置を掴んでいますが、これはイギリスの運命はアメリカが握っているという意味でしょう。なお、ヨーロッパの大きさが実際よりも小さく描かれ、ほとんど破壊された状態になっています。一方、アフリカ大陸と南アメリカ大陸は、力強く描かれています。

 

大人と子どもの影の長さにも注目です。大人よりも子どもの方が影が長くなっています。大人の影はヨーロッパ、大西洋までですが、子どものほうは、太平洋まで伸びています。

 

おそらく、先の短いヨーロッパ人がこれから世界を支配するのはアメリカで、その影響力(影)は太平洋まで伸びるであろうということを子どもに教えているのかもしれません。その証拠に、太平洋部分の殻も超人の足で突き破られそうになっています。

上下にある布のようなものは?


本作についてダリはこのようなメモを書いています。

 

「パラシュート、パラネッサンス、保護、丸天井、胎盤、カトリシズム、卵、地球の歪み、生物学上の楕円」

 

卵の上下にあるパラシュート、または布のようなものにそれらの単語の意味が含まれているものだと思われます。胎盤や卵など「親」のようなものを表現しているのでしょう。

伝統と古典の回帰


なお、大人とその大人にしがみついた子どもは、ラファエロの「聖母結婚」(1504年)に基いて描かれているようです。卵の左に小さく描かれた二人の人物は、ラファエロの「聖母の結婚」の中でも描かれています。

 

シュルレアリスムとちがい、このダリの古典主義的作品の着想は、より普遍的な題材に対する興味がさらに強くなったことを明らかにしています。伝統的な絵画、科学的な発見、同時代の出来事(世界情勢)を見事に表現しています。

ラファエロ「聖母の結婚」
ラファエロ「聖母の結婚」

●参考文献

・上野の森美術館「ダリ展」図録

Salvador Dali Paintings

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