【作品解説】ジョルジョ・デ・キリコ「出発の憂鬱」

出発の憂鬱 / The Melancholy of Departure

観念的で複雑思考の内面不安を表現


ジョルジョ・デ・キリコ「出発の憂鬱」(1916年)
ジョルジョ・デ・キリコ「出発の憂鬱」(1916年)

概要


不安時の思考回路をビジュアル化


「出発の憂鬱」は1916年のジョルジョ・デ・キリコによって制作された油彩作品。

 

この作品はパリからイタリアに戻って、1915年イタリア軍として第一次世界大戦に参加するも、戦闘員として体力不足と判断され、病院勤務に移された時期に制作された作品です。

 

大戦中にキリコは、それ以前に描いていた海や山などの自然主義的な明るい世界観が息を潜めていき、本作のように薄暗い屋内設定と機械的なオブジェへと関心を移し始めました。キリコはこの時期、物事の表面によって隠された背後にあるものを描こうとしていました

 

キリコ作品には、汽車や鉄道の駅がよく描かれることからも分かるように、旅行や出発をテーマにした作品が数多く存在しています。キリコにおける汽車とは子供時代や故郷を意味しています。本作「出発の憂鬱」は、時期的にみて、兵役として戦争に参加したキリコの不安な感情や複雑な思考回路が表現されていると思われます。

 

画面の上半分には、イーゼル(画架)のようなオブジェが複数、ランダムに組み合わされ集積されています。画面の下半分では三角形のマップが描かれており、この地図には2つの大陸間を行き来するためのさまざまなルートが書かれていますが、おそらくこれは戦線マップです。そして、薄暗い部屋のオープンな窓からは、巨大な塔がのぞいています。

 

本作と同時期に描かれた作品では、ほかに「不安を与えるミューズたち」があります。こちらも「出発の憂鬱」と同じく、戦争の不安を描いたものです。

 

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