【作品解説】パブロ・ピカソ「人生」

人生 / La vie

ピカソの「青の時代」のマスターピース


概要


作者 パブロ・ピカソ
制作年 1903年
メディウム カンヴァスに油彩
サイズ 196.5 cm× 129.2 cm
コレクション クリーブランド美術館

《人生》は1903年にパブロ・ピカソによって制作された油彩作品。ピカソの「青の時代」の作品であり「青の時代」の集大成ともいえる傑作とみなされている。現在、クリーブランド美術館が所蔵している。ピカソの「青の時代」(1901-1904年)は、薄暗い青や青緑で描かれた陰鬱な描写が特徴である。実際に「青の時代」の時期のピカソの人生で最も悲惨な時期だった。

 

画面左に描かれているのは、親友のカルロス・カサジェマスとその恋人のジェルメールである。この作品は2人の悲劇を描いている。失恋に落ち込むカサジェマスをピカソは元気づけようとしたが、カサジェマスの精神はどんどん悪化していき、最後はジェルメールを誘い出し、彼女を拳銃で撃つ。

 

その後、自らもこめかみに銃口を当て自殺。ピカソは精神的に不安定だった友人をうまく助けられなかったとして、自責の念に苦しんだ。なお、ジェルメールは撃たれたふりをしていて死んでいなかった。ジェルメールはのちにピカソの《アヴィニョンの娘たち》のモデルの一人となっている。

母子像


絵画の右側に描かれているのは母子像である。母子像も「青の時代」によく現れるモチーフで、この頃のピカソは学生生活も終わり、本格的に自立を始めた時期であり、バルセロナ(故郷)とパリ(自立)の2つの時間と空間が分離し始めている不安定な移行期間にある時期だった。そうした環境下で、故郷バルセロナは「母」に、ピカソは「赤ちゃん」に投影されているのではないかと思われる。

 

のちに赤外線分析で最初はピカソの自画像だったが、あとにカサジェマスに変更させられていることが分かっている。

 

また母はカサジェマスを見つめ、カサジェマスは赤ちゃんを見つめ、ジェルメールは下を向いている。カサジェマスは性的に不能であったらしく、失恋や自殺の動機も性的不能に問題にあったといわれており、そのため母の視線は慈愛的な視線でカサジェマスに向けられ、カサマジェスは慈愛を受ける赤ちゃんを見つめ、ジェルメールは悲しげに視線を下に落としているという。

 

カップルが示す愛に母子愛が対置され、愛の裏側に存在する孤独や苦悩が中央のキャンパスに描き込まれるという複雑な構成となっている。

謎めいたジェスチャー


美術研究者たちは、この絵で本当に重要な点は、構図の中心にあるカサジェマスの謎めいたジェスチーではないかと指摘している。2003年にピカソ研究家のベッチ・ジョーレンズとピーター・M・ウェマイヤーは、このジェスチャーの元はスペインのプラド美術館に所蔵されているコレッジョの作品《ノリ・メ・タンゲレ(我に触れるな)》ではないかと指摘している。

コレッジョの作品「ノリ・メ・タンゲレ(我に触れるな)」。
コレッジョの作品「ノリ・メ・タンゲレ(我に触れるな)」。

ゴッホの「悲しみ」


二人の男女と母子像を中央で隔てているのは二枚の絵である。上には抱き合う男女が、下にはうちひしがれる人物像が描かれている。下のうちひしがれている絵は、フィンセント・ファン・ゴッホの《悲しみ》」とよく似ている。

フィンセント・ファン・ゴッホの「悲しみ」。
フィンセント・ファン・ゴッホの「悲しみ」。