ポップ・アート

ポップ・アート / Pop art

ポピュラー・カルチャーを使った芸術


ロイ・リキテンシュタイン「ヘアリボンの少女」(1965年)
ロイ・リキテンシュタイン「ヘアリボンの少女」(1965年)

概要


ポップ・アートとは


ポップ・アートは、1950年代半ばのイギリスと1950年代後半のアメリカで発生した前衛美術運動である。ただ、ポップ・アートから絵具を使ってキャンバスに絵を描かなくなってきているため、「現代美術」「ポストモダンアート」にカテゴライズもされる。近代美術から現代美術への移行期である(移行完了はコンセプチャル・アート)。

 

ポップ・アートは、広告、新聞などのポピュラー・カルチャー上の図像を利用して、ファイン・アートの伝統に挑戦した表現である。


ポップ・アートで使われる広告や芸能人の写真などの素材は、本来の文脈から切り離される。また切り離された素材は、ほかの全く無関係な物質と組み合わされることで、新たな文脈を生成する。

 

ポップ・アートのキーワードは、「ポピュラー」「はかない」「消費財的」「低コスト」「大量生産」「若さ」「洒落ていること」「セクシー」「新しがり」「魅力的」「ビッグ・ビジネス」である。

 

※注意

ポップ・アート(Pop art):ポピュラー・カルチャー上の図像を使ったファインアート。

ポピュラー・カルチャー(popular culture):大衆文化。雑誌、新聞、マンガなど。

ファイン・アート(fine art):絵画、彫刻などの美術。学校の美術や歴史の教科書に載っているような作品。

リチャード・ハミルトン「いったい何が今日の家庭をこれほどに変え、魅力的にしているのか?」(1963-66年)
リチャード・ハミルトン「いったい何が今日の家庭をこれほどに変え、魅力的にしているのか?」(1963-66年)

抽象表現主義への反発


ポップ・アートは、当時主流の前衛美術である抽象表現主義に反発する形で生まれてきた。ポップ・アートは抽象表現主義の情緒性や内面を重視する表現より、クール、ドライ、没個性的、即物的なものに対する関心の高さがある。


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抽象表現主義

アンディ・ウォーホル「ペプシ」(1962年)
アンディ・ウォーホル「ペプシ」(1962年)

文脈の無効化と再構成


ポップ・アートの表現のルーツは、ダダイスムやマルセル・デュシャンにさかのぼる。

 

便器や自転車の車輪など、大量生産される日常的な製品を任意に選び、そこに置いただけのレディ・メイドは「これが芸術?」と首をかしげさせるに十分だったが、ポップ・アートもまた新聞、雑誌、広告、写真など身近な大衆メディアや日用品を活用したことで「これが芸術?」というような文脈から現れた。

 

また、レディ・メイドが本来の文脈(「泉」であれば男性用便器)から切り離されるのと同じように、ポップ・アートで使われる素材もまた本来の文脈から切り離される。

 

また切り離された素材は、ほかの物質と組み合わせられることで新たな文脈を作る。これはダダイスムやシュルレアリスムで使われるコラージュと同じ手法である。

 

一見したところ、ダダの技法が復活している。しかし背後にダダの哲学はない。ダダイスムは明確に反芸術だったが、ポップ・アートは積極的な、建設的なものを見い出していた。それはダダイスムが「反芸術」で、シュルレアリスムが「建設的」だったこととよく似ている。


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ダダイスム

レディ・メイド

マルセル・デュシャン「泉」(1917年)。便器をそのままオブジェとして展示。「モノを作る」芸術から「モノを選択する」芸術レディ・メイドの創始者。
マルセル・デュシャン「泉」(1917年)。便器をそのままオブジェとして展示。「モノを作る」芸術から「モノを選択する」芸術レディ・メイドの創始者。
ラウール・ハウスマン「美術批評家」(1919年):ベルリン・ダダの代表的な作家。フォトモンタージュやコラージュの先駆者。
ラウール・ハウスマン「美術批評家」(1919年):ベルリン・ダダの代表的な作家。フォトモンタージュやコラージュの先駆者。

シュルレアリスムとの差異


また、19世紀の大衆雑誌のイラストのリメイクともいえるエルンストのコラージュ、有名な「ミロのヴィーナス」の複製の胴体に抽き出しをつけたダリの彫刻、ティーカップとソーサーとスプーンの三点セットを毛皮で包んだオッペンハイムの三次元的なオブジェなど高尚、低俗といった区別がないフラットなコラージュは、一見するとシュルレアリスムと同じ手法である

 

では、シュルレアリスムとの違いは何か。

 

シュルレアリスムは個性や内面や情緒を重視した表現である。ポップ・アートはその反対で、没個性的で即物的である。

 

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シュルレアリスム

マックス・エルンスト「カルメル修道会に入ろうとしたある少女の夢」
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サルバドール・ダリ「記憶の固執」
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記号社会とポップ・アート


ポップ・アートは記号社会と大きな関係がある。

 

現代は「記号の世界」である。記号とは機能を示すもので、記号そのものには意味はない。たとえば信号機の緑が、背後に何の実体を持たずに「進め」を意味するということである。

 

地図上の〒は郵便局を示す以外に背後に何の実体もない。T社のVという車は、そのスタイルやマークから「あっ、T社のVだ」と即座に判別される。

 

このように記号は即時的な反応であることが重要である。デュシャンが20世紀のはじめ、便器を既に「レディ・メイド」として芸術の脈絡で置くことによって現代美術の作品としたのは、つまり「あれ、便器だよね?」という既製品の持つこの記号的要素を逆手にとった表現行為だったのである。

 

アンディ・ウォーホルは、セクシーな女の典型としてマス・メディアによって記号化されたマリリン・モンローをそのまま作品にした。アメリカ国民は、マリリン・モンローを「セックス」と事前に認識している。「モンロー」=「セックス」を意味するものであると「記号化」されている。


モンローは、記号化された虚像が一人歩きすることによって人気となる。本来は虚像の背後には必ず実体があると思いがちだが、現代におけるマス・メディアの発達は、虚像の機能を異常に肥大化して、実像を上回らせた。ここに虚像・記号の時代と呼ばれることの意味があり、またそのような環境に即してポップ・アートが生まれた。

アンディ・ウォーホル「マリリン・モンロー」
アンディ・ウォーホル「マリリン・モンロー」

大量消費社会とポップ・アート


記号社会に加え、戦後アメリカの絶頂期の豊かな大量消費社会を反映しているのが特徴である。

 

アンディ・ウォーホルは人気女優マリリン・モンローや、大量生産品のキャンベルスープ缶のイメージを無限に増殖させるような反復的な絵を描いた。

 

さらにウォーホルは、自身のアトリエを「ファクトリー(工場)」と呼び、労働者を雇い、シルクスクリーンプリントを大量に作る。工場と同じくアートを大量生産して販売。大量生産する行為をアートにした。

アンディ・ウォーホル「マリリン・モンロー」(1967年)
アンディ・ウォーホル「マリリン・モンロー」(1967年)

「ビジネス・アートはアートの次に来るステップだ。ぼくはビジネス・アーティストとして終わりたい(アンディ・ウォーホル)」


ウォーホルのビジネス・アートは、このあと村上隆やダミアン・ハーストへ受け継がれていくのである。

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