スワンベルク、女に憑かれて

 マックス・ワルター・スワーンベルク(Max Walter Svanberg)は、澁澤龍彦が最も愛するアーティストの1人である。1912年、スェーデン生まれ。


 1948年にスウェーデンの「イマジニスト」グループを設立。1953年にアンドレ・ブルトンから、彼の率いるパリのシュルレアリストグループへの参加を誘われる。そのとき、展覧会は大成功をおさめたものの、彼はカタログの序文が気に入らないというので、パリのシュルレアリストグループと絶縁しようとしたという。もっとも彼はその後もブルトンらと接触は続けているので、一般的には傍系のシュルレアリストとして位置付けられている。

 

  スワンベルクの描く絵には、ほとんど必ず妖しい魅惑の女が登場していることに注目したい。スワンベルクによれば、人生における最も美しいのは愛なのである。彼のインスピレーションの主要は主要な源泉は常に「女」なのである。「女」は彼の生涯の最重要のテーマである。

 

 スワンベルクの描く「女」は、ひたすら本能によって行動する女、無制限な官能の力によって人生を生きる女、無垢の女である。それは快楽原則の無制限な拡張である。


 レモンのような紡錘形の乳房を張りだし、胸をぐっと反らし、顎をあげて、ややのけぞた姿勢の少女めいた女は、スワンベルクの無意識のなかの女の原像であるかのように思われる。画家の好む「想像妊娠」という題名が示す通り、目の大きい、首の長いこれらの少女たちは、ともすると男性恐怖症にとりつかれた潔癖な処女たちであるかもしれない。

 

 この画家にはまた、湾曲した長い角や、鳥の翼やくちばしや、あるいは蝶の羽のような、鱗のような、貝殻細工のような、きらびやかな冷たいマティエールに対する目立った嗜好がある。さらに鳥や獣や魚のような空想的な動物と、女の姿態とが混ざり合い、奇妙な半人半獣のエロティックな生物のイメージを形成するのが、スワンベルクの夢幻的な世界の特徴である。そこにはシンメトリイと、同じイメージの分裂増殖と、花冠のような放射状ないし求心的な形体に対する偏愛も見出される。


 一方、スワンベルクのすべての作品に、男性の姿がまったく見られないということは注意してよいことだ。彼の画面には男性の登場する必要がないのである。なぜかといえば、芸術家は女たちの創造者であるとともに、熱愛社、賛美者も兼ねており、男性を描かなくても自分の男性性器を象徴するイメージ(一角獣の角、象の鼻、長い鳥の首、短剣など)描くことによって満足される。つまりスワンベルクのすべてのタブローは、女のイメージと男性性器のイメージによって構成された、愛の象徴の構図でしかないのである。


 自分の芸術を説明するのに、スワンベルクはかなり熱意を燃やす画家らしく「女に憑かれて」と題する短文のなかで、スワンベルクは次のように述べている。

 

「私の芸術は、幻覚と現実との、痙攣する美と純潔な渇望との、あの奇妙な混種であるところの女の前にひざまずいた、女を熱愛する男によって作られた、女への賛歌であり。女は虹色の部屋にひとりで住んでいる。その膚は奇妙な衣服、群がった蝶や、事件や匂いや、朝の薔薇の指や、日盛りの透明な太陽や、黄昏の青い恋や、大きな目をした夜の魚などでできている」。

 

 もうひとり、スワンベルクのよき理解者である詩人アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグの文章を引用しよう。

 

「彼の魅力にあふれた女性的創造物の、ともすれば立ち騒ぐ狂乱のエロティシズムには、不潔なものや卑猥なものが何一つ完全にないのだ。彼の劇場は、深夜の月と太陽によって照らされた、磁器の娘たちしか登場しない舞台である」(幻想の彼方へ 澁澤龍彦)

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コメント: 1
  • #1

    澁澤龍彦 (土曜日, 29 3月 2014 12:46)

    good