パヴェル・チェリチェフ

パヴェル・チェリチェフ /

パヴェル・チェリチェフは、20世紀芸術史上最大のフリークス絵画「Phonomena(1936-38)」を世に残した亡命ロシア系天才ゲイアーティスト。


天才レズビアン文学者ガートルード・スタインからは「ピカソの次ぐ才能の持ち主」と称賛され、高い評価を受ける。1920-30年代パリのエリートや前衛芸術家からなる同性愛サークルの主要メンバーの一員となった。

 

シュルレアリスム運動の「法皇」を自称しながらも同時にゲイ差別主義者であったアンドレ・ブルトンから酷評を受けたが、当人は自作をシュルレアリスム呼ばわりされることを否定し、ブルトンへの皮肉と当てこすりを込めて「悪趣味王子」を自称したこともある。

 

悪趣味を自称することに喜びを感じずにはいられないほどの、変身、変貌する人体への興味と愛着。変態見世物興行黄金時代後期にあたる1930年代なかばに、アメリカ移住直後の作者がマンハッタンでフリークショウを見物したときの感動にうながされて制作を開始し、下絵から完成まで足掛け4年を費やした大作が「Phonomena(1936-38)」だ。

見世物のメッカ、画面の最底辺には静かに打ち寄せる波。レインボーカラーで染め上げられたピラミッド風な三角形の浜辺では、フリークスの群れがひしめきあっている

 

ピンヘッドの鳥おんな「クークー」、多毛症のライオン王子「ライオネル」、キノコあたま、あざらし男「シーロ」。レオノール・フィニーが象皮病娘、作者の終世の恋人で文学者のチャールズ・アンリ・フォードが蜘蛛男、ガートルード・スタインが牛女、ピョートル大帝は巨大赤ちゃんとテニス中といった具合に、多くの知人や有名人もフリークス芸人として登場している。そして、画面の右下隅でキャンバスに向かい絵筆を握っている、極度に足のどデカい大足人は、作者自身の自画像なのだ。

 

画面上方では、高層ビルの摩天楼都市が、画面中央の天辺の消失点にむかってグイグイと引きずる力でドミノ倒しのようになぎ倒されてしまい、巨大な廃材の山のような佇まいを見せている。その前庭にあたり当時の変態見世物の聖地コニーアイランドを思わせる浜辺で、降り注ぐレインボーカラーの謎の光線を浴びながら、思い思いのポーズで群れ集っているフリークスたち80人の視線は、ことごとく、鑑賞者の目の位置に向けられている

 

 作者によればダンテ『神曲・地獄編』だというこの作品が、人類の未来の可能性を託された最後の人間としてのフリークスを、人間と動物と地球を破滅から救う希望の星としてのフリークスを賛美する大合唱のように響いてくるのはなぜだろうか。